ラカイン族の老人が遺したもの < 下川裕治の旅をせんとや生まれけむ

Emotional, Burning, Unlimited Tuned Laboratory

バングラデシュのコックスバザールに大好きな椅子がある。安楽椅子というのだろうか。背はかなり倒れている。太い木で枠をつくり、背や腰を乗せる部分には、細いビニールを編んだものが張ってある。

僕はこの椅子を勝手にラカインチェアーと呼んでいる。特別に価値がある椅子ではない。昔はどのラカイン人の家にもあったと思う。

この椅子を目にしたのは、30年ほど前だ。老人がいつもこの椅子に座り、外を眺めていた。椅子というより、座る老人が好きだったのかもしれない。

ラカイン族は、バングラデシュ南部に暮らす少数民族だ。仏教徒である。ミャンマーとバングラデシュに分かれて暮らしている …